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仙台高等裁判所 平成元年(ネ)313号 判決

控訴人 宮城県信用保証協会

右代表者理事 渡邊亮

右訴訟代理人弁護士 八島淳一郎

被控訴人 早坂のぶ

右訴訟代理人弁護士 小野由可里

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  訴外早坂正が原判決別紙物件目録一、二記載の不動産(以下「本件各不動産」という。)につき昭和五六年四月二五日被控訴人との間になした贈与契約を取り消す。

3  被控訴人は控訴人に対し、本件各不動産につき仙台法務局昭和五六年五月二二日受付第五六〇三号をもって前項の贈与契約を原因としてなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二当事者の主張は原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。ただし、原判決二枚目裏三行目「昭和五八年」を「昭和五四年」と訂正し、同四枚目表三行目「離婚」の次に「(平成元年九月二六日正式に協議離婚届出)」を挿入する。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  〈証拠〉によれば、訴外会社は保険会社から二〇〇〇万円を借り受けるに当たり昭和五三年八月二二日控訴人との間に信用保証委託契約を締結し、早坂正は右契約上の一切の債務につき連帯保証したこと、訴外会社は保険会社から昭和五三年八月二四日請求の原因3の約定のもとに、右二〇〇〇万円を借り受け、正は同日右借入金債務につき連帯保証したことの各事実が認められ、また前掲証人佐藤清の証言によって成立の認められる同第一号証の六によれば、訴外会社は昭和五五年九月二四日手形不渡処分を受け、前記約定によって期限の利益を喪失し、前記借受金債務の返済ができなかったので、控訴人は前記信用保証委託契約に基づき昭和五六年一一月二七日保険会社に対し、一四二一万円八一三三円を代位弁済したことが認められ、前記認定に反する証拠はない。

二  正が昭和五六年五月二二日被控訴人に対し、本件各不動産につき贈与を原因とする所有権移転登記をしたことは当事者間に争いがなく、右事実と〈証拠〉によれば、次の各事実が認められる。

1  被控訴人(大正一〇年一月一五日生)は実家で経営する株式会社柳澤商店で働いていたが、昭和二八、九年頃から同商店の従業員であった正(昭和五年九月二六日生)と同棲し、昭和三二年一月同人と正式に婚姻した。両者間には長男照雄(昭和三二年一月二二日生)がいる。

正は昭和三九年九月原判決別紙物件目録一記載の土地をその地上建物とともに当時二〇〇万円余の価額で購入し、一家は右建物で居住するようになったが、被控訴人は右物件取得にあたり半分位の金額の出捐をした。

2  正は、まもなく右商店を辞め、昭和三九年一一月建築材料の販売等を目的とする株式会社伸和建材(以下「伸和建材」という。)を設立して、自ら代表取締役に就任したが、伸和建材の資金繰りのため右土地建物を担保に供するなどしていた。

3  正は酒癖が悪く、飲酒すると被控訴人に暴力をふるうなどしていたが、昭和五二年頃から家を出て福島県相馬市内で某女性と同棲するようになり、被控訴人とは別居し、格別の用件のあるとき以外には被控訴人のいる仙台市長町南一丁目一四番二七号には寄りつかず、以来別居を続けるに至った。

被控訴人は正との右のような別居生活に半ば諦め忍従の生活を強いられていながらも、別れ話をするとともに、先き行きを案じて、当時から、自分達母子の生活の場だけは確保したいものと考え、正に対し右土地建物の名義を被控訴人に変えてほしいと要求し、正も謝罪の気持も含めてこれを応諾していたが、右土地建物が伸和建材の借入金の担保に供されていることを知らされ、右の話はのびのびとなっていた。

4  昭和五三年六月宮城県沖地震が発生し、地上建物が傷んだため、正は昭和五五年四月右建物を取り毀わし、そのあとに原判決別紙物件目録二記載の建物を建築した上、同年一二月二三日自己名義に所有権保存登記をした。その際の建築代金は約一二〇〇万円であったが、被控訴人も実家から約五〇〇万円を工面して貰って支払った。

5  正は、訴外会社の依頼を受け訴外会社の保険会社からの本件借入金債務及び控訴人に対する信用保証委託契約上の債務につき連帯保証をしたほか、訴外会社の宮城第一信用金庫、振興相互銀行からの各借入金債務及び同借入に当たってなした控訴人に対する信用保証委託契約上の債務についても連帯保証をしていた。しかるに、訴外会社が昭和五五年九月二四日手形不渡処分を受け事実上倒産したため、正は自己所有の不動産を任意売却し、その代金をもって右の責任を果すこととし、その頃本件各不動産を除くその余の自己所有の不動産を売却し、その代金の一部をもって宮城第一信用金庫、振興相互銀行に対する債務を全額弁済した。

正は右不動産処分による負債整理に努め、本件土地を担保とする負債についても昭和五六年五月一五日頃までには全額返済し、担保を消除することができたので、同年五月二二日かねての被控訴人の念願どおりに本件各不動産につき、被控訴人に対し、本件所有権移転登記をした。

6  被控訴人と正とは平成元年九月二六日に至って正式に協議離婚の届出をした。

7  本件各不動産は本件所有権移転当時、正名義のものとして唯一のものであったが、正は亭主関白で、被控訴人と別居するに至ってからは勿論のこと、同居中の頃でも被控訴人に対し、商売や仕事のことについては全く打ち明けたり話題にすることはなく、被控訴人は本件各不動産がいつ、どのような債務の担保になっているか、正や伸和建材の負債などについては全く関知しておらず、本件各不動産の贈与による所有権移転登記を受けるに当たっても、別居当時からの要望を実現して貰っただけであるとの認識であって、後日贈与税二〇〇万円位が課せられるに及んで、税務署においても右主張を繰り返しているが、結局容れられず、実家から融資を受けて納付しているなど、被控訴人は控訴人ら債権者を害するものであるかどうかなどということは全く意識していなかった。右認定事実からすると、本件各不動産は正と被控訴人が婚姻中に共同して蓄積した財産であって、正は被控訴人と協議により被控訴人に対し、離婚に伴う慰謝料も含めて財産分与として本件各不動産を譲渡し、所有権移転登記したものであり、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大で、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情があるなどとはいえないし、かつまた被控訴人に詐害の意思があったとも認め難い。

三  以上の次第で、控訴人の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 武藤冬士己 裁判官 松本朝光)

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